「物流こそインフラだ!」夢を抱きカオスな街を走る中国のドライバーたち

ドライバー

愛媛で育った自分には、幼い頃にかわいがってもらった親戚のおじさんがいた。

「頑張れば月70万にはなるけん、たいぎい(しんどい)けど、こらえて頑張るんよ!」

そんな伊予弁丸出しのおじさんの言葉を、今でもよく覚えている。

100円玉を持って駄菓子屋にダッシュしていた当時の自分からすれば、70万円なんて雲の上の話。

ドライバーとは大したものだと、子ども心に思うばかりであった。

そして月日は流れ、令和の世。

さすがに昔ほどとはいかないものの、それでもハイエースを借りて一人親方を始めた知人からは、景気のいい話が聞こえてくる。

彼は長らく日当仕事をしていたが、コロナ禍のあおりを受けて失業。

そんな時、個人事業主でやる宅配仕事が稼げるという話を聞きつけ、持ち前のフットワークの軽さを生かし、転職を成し遂げた。

「効率よく配達するのに慣れというかコツがあるんですけどね。上手くやれば、月50万いくんでよ……!」

体力が取り柄の彼にとって、ドライバー仕事との出会いはまさに水を得た魚のごとし。

紆余曲折はあったようだが、周囲の友人たちは「ちゃんと稼げてるし、このままいけば別れた奥さんとも、ひょっとしたら復縁できるんじゃない?」とポジティブに見守っている。

このようにドライバーの仕事は頑張ればその分、リターンが見込めるケースが多い。

もちろん、免許を使う職種は他にも世の中にごまんとあり、いずれの仕事もラクして稼げるなどと無責任な話をするつもりはない。

だが、固定給でもない限りは、流した汗の量だけ収入が増えていく。

時代によって稼げる額は違うかもしれないが、この原則は不変である。

さて、ところ変わって自分が今暮らしている中華人民共和国。

この地でも、宅配便ドライバーは頑張れば頑張っただけ、金銭面で報われる。

何しろ、地方からの出稼ぎ者が、大学院卒の帰国子女より稼げてしまうこともある。

社会主義のお国柄でありながら日本より格差の大きい中国で、ささやかながら「下剋上」を起こせる職種として、主に地方からの出稼ぎ者の働き口となっているのだ。

ここでは中華の大地で生きる宅配便ドライバーの実情を日本の皆さまにお伝えしつつ、自分が両国のドライバーから感じたことをつづってみたい。

(筆者撮影)

月収1万元超えの中国ドライバーから感じたこと

中国では宅配便ドライバーのことを「快递员」(クァイディーユェン)と呼ぶ。

荷台付きの電動バイクに小包を山と積み、宅配にいそしむのが仕事だが、ネット通販が盛んな中国では荷物の量が半端ではない。

さらに、交通ルールがかなり適当なため事故のリスクもつきまとい、感情表現がストレートな中国のカスタマーはクレームも激しめと、なかなか大変な仕事なのである。

それでも深刻な人手不足という話を聞かないのは、もともと人口が多いせいもあるが、それなりに稼げる仕事というイメージがあるからだ。

月給は全国平均で見た場合4000元から6000元、日本円にすると7万5000円から11万円といったところ*1。

ただし、中国は広大な国土を持ち、地域によって収入格差が大きい。

地方では厳しいものの、北京や上海などの大都市では月1万元(日本円で約19万円)を稼ぐことも夢ではない。

農村で生まれ育ち、学歴もコネもない中国の出稼ぎ労働者にとって、月1万元という収入がいかに大きいものであるか、日本人はおそらく想像しづらいだろう。

中国では、僻地の年収が都市部の月収に等しいケースなどザラにある*2。

その上、日本とは比較にならないほどの学歴社会で、いい仕事に就くためには進学が必須だが、教育費はべらぼうにかかる。

中国では貧しく生まれてしまったら、そこから這い上がるチャンスは決して多くない。

そんな中、せめて自分の子どもにはいい教育を受けさせたい、故郷に家の一軒も建てたいと願う人々は、出稼ぎの道を選ぶ。

そうして宅配便ドライバーとなり、カオスに満ちた中国の街を日々駆け抜けるのだ。

リアルな話をしてしまえば、稼ぎが1万元の大台に乗る人は全体のごくわずかというデータもある*3。

ただし、中国の出稼ぎの場合、「食」と「住」はたいがい雇用側が保証する。

食事がおいしいわけではなく、住まいもプレハブやマンションの一室に複数名と生活環境は厳しいけれど、余計なお金はかからない。

それ以前に、本気で稼ごうと思うなら遊ぶ時間がなく、お金を使う機会もない。

かつて自分は「1万元ドライバー」と知り合い、じっくり話し込んだことがあるのだが、驚かされたのはとにかく仕事をすれば収入になるのだからと言って、休みを取ろうとしないことだ。

そのお方は日本で建築の仕事をしていたことがあり、大震災を機に帰国したという経歴の持ち主で、今でも少し日本語を話せる。

「日本に行けば稼げると思ったけれど、物価が高いし言葉の壁もあるしで大変。今の仕事の給料は日本にいた頃に比べれば少ない。でも、ここなら家賃がかからないので、結局同じくらいだね」と言っていたのが印象的だった。

現代に生きる中国の人々は、もはや海を渡らなくても自国でそれなりに稼げる。

ただしそれは、自らの努力にかかっている。

「中国は古い建物が多くて、エレベーターのない6階建てのアパートなんて普通にある。

重い荷物を持って、1日に何十回も上り下りをするんだから、そりゃあ大変。

それでも『今月も1万元を絶対超えてやる!』って思えば、何とかなるもんだよ」

そう言う彼から感じたのは、己の力で運命を切り開いていこうとする姿勢。

そして、社会の不条理や不公正さを前にして諦めるのではなく、「大卒やボンボンに負けてたまるか!」とばかりに奮起する心である。

(筆者撮影)

ドライバーたちの働きがなければこの社会は回らない

実際、自分の周りにいる比較的恵まれた中国人の中には、頑張ることを最初から投げ出している者も多い。

それは無理からぬ話で、海外留学して大学院まで進み、帰国したところで好条件の仕事を探すのは至難のワザ。

ITや金融など時代の波に乗っている専門分野なら話は別だが、国有企業の一般職、もしくは中小企業ともなれば、初任給が宅配便ドライバーよりも低いことだって珍しくない。

給料だけでは都会でマンションを買うなんて、一生かかっても無理。

だったら無理する必要なんてないという考えに至るわけだ。

そして、残念ながらそういう諦めムードの人に限って、肉体労働者を無意識に見下したりする。

中国では古来より武人よりも文人が尊ばれ、頭脳労働を上に見る伝統があることも、きっと影響しているのだろう。

はっきりいって中国の悪い点であり、自分としては説教のひとつもしたくなる。

ところが、そのような意識を一変させたとまではいかないが、変わるキッカケとなった大事件がある。

新型コロナの流行である。

2020年の感染拡大当初、街から人影が消えた中でも、配達員や医療関係者、インフラ従事者といった社会運営上欠かせない人々、つまりエッセンシャルワーカーたちは、自らの職責を全うした。

そして、中国の国営メディアは連日のように彼らを英雄視する報道を繰り返した。

もちろんそこにはヒーローを作り上げようという当局の狙いがあるのは明白。

しかし、コロナが今よりはるかに正体不明のウイルスだった当時、リスクを冒して人々に日用品などを届けるドライバーたちは、まぎれもなく英雄だった。

普段は国営メディアに信を置かない人々も、共感を覚えたのである。

この時、みんなが理解した。

結局、本当にいなくなったら世の中が回らない人々は、誰であるかということを。

物流とはすなわちライフライン。

そのことを痛感した中国の人々は、以前に比べれば物流従事者へのリスペクトを持つようになった。

むろん、日本においてもドライバーの人々がわれわれの生活を支えてくれていることに変わりはない。

ドライバーたちは雨が降ろうが寒波が来ようが、気合いで荷物を届けてくれる。

それを、われわれは「仕事だから当たり前」と、軽く考えてしまってはいないだろうか? 

社会を支える人々に対する敬意や感謝の気持ちを忘れてはならないし、日本人には本来そういう心が備わっていると自分は信じる。

次に荷物を受け取る時には、そのようなことを頭の片隅に留めておいていただければ幸いだ。

あなたの優しい思いは、きっとドライバーの方にとってモチベーションとなるはずである。

*1 騰訊網「宅急便ドライバーの毎月の給料はいくら?どんな内訳?宅急便ドライバーの給料は高いか高くないか?」https://new.qq.com/omn/20210511/20210511A0B3KH00.html(中国語)

*2 東洋経済「中国に衝撃『月収1.5万円が6億人』の貧しさ」https://toyokeizai.net/articles/-/357314

*3 新浪専欄「給料が上がったが宅急便ドライバーも誰も嬉しくない」https://finance.sina.com.cn/tech/csj/2021-09-06/doc-iktzqtyt4383068.shtml(中国語)

御堂筋あかり スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

 

働きやすい職場認証制度とは?

 

「働きやすい職場認証制度」は、自動車運送事業者(トラック・バス・タクシー事業)の運転者の労働条件や労働環境を第三者機関が評価・認証する制度です。

 

[1]法令遵守等、[2]労働時間・休日、[3]心身の健康、[4]安心・安定、[5]多様な人材の確保・育成の5分野について、基本的な取組み要件を満たした事業者だけが認証されるので、当制度の認証マークを取得している企業はドライバーとして安心して働きやすい環境づくりに取り組んでいると言えます。ドライバーへの就職や転職を考えているひとはぜひ参考にしてみてください。

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