働き方改革は残業を減らす?中小企業に必要なことは「働き方革命」かも知れない

働き方

働き方を変えることでよりよい結果が生まれるのなら、その決断は早い方がいいに決まっている。

しかし、現実世界を見渡すと、各職場で行われている働き方改革では拙速が思わぬ弊害を引き起こす事例とて、なきにしもあらず。

トップによる鶴の一声で変化がもたらされ、現場で働く人々が混乱したり、はたまた想定外の問題が発生したり。

そのような事態を防ぐには事前にしっかりと調整を行い、改革案が適切であるかどうか精査することが欠かせない。

だが、変化にスピードを求めすぎたり、組織の意思決定者が前のめりになりすぎる余り、それらがおざなりになることは往々にしてあるものだ。

また、近年では改革どころか一種の革命とも言える大変革が断行されるケースもある。

これは、社会全体で働き方改革の必要性が強く認識されてきた証しと見ることもできるが、同時に一部では何らかの問題が明るみに出て、急遽手をつけたと思しき案件も少なくない。

いわゆる謝罪会見の後に対策が打ち出されるという、ニュースでしばしば目にする光景である。

それで変革が達成されたとしても、「なぜこんなことになる前に、しっかり問題に向き合わなかったのか」という批判は免れない。

つまり、働き方改革は早く進むにこしたことはないが、急激な変化が必ずしも好ましいわけではないということだ。

筆者は、こう思う。

本当に必要なのは、ある日突然思いついたような変化や、誰かが傷ついて初めて行われるような大変革ではないのではないか。

常に変えるべき点を探り、改革を常態化させて、問題を逐次解決していくことこそスムーズな働き方改革につながるのではなかろうかーー。

そのような問題意識の下、筆者が社会人生活の中で体験してきた働き方改革の事例および問題点を紹介したい。

改革そのものが目的化していないか

働き方改革とはその名の通り、労働環境の見直しや多様で柔軟な働き方を皆が選べる制度作りを通じ、人々にとって働きやすい社会を作り上げること。

ひいては労働人口を増やすとともに生産性を高め、長時間労働の削減やワークライフバランスの実現を図ることを狙いとする。

要するに、改革とは手段である。

しかし、世間で見られる働き方改革の中には、それ自体が目的化しているのではとの疑念を感じるケースもある。

例えば、とある企業で残業をなくすために、定時以降は強制的に職場の全ての電源をシャットダウンすると決めたといったニュースが流れてくる。

これは一見英断に思えるし、実際そうなのかもしれないが、筆者はこんな懸念を抱いてしまう。

「以後は残業をする必要がないよう、仕事配分や人員増強などしっかりと対策を行った上で、下された決断なのだろうか?」

なぜそのようなネガティブな考えが頭に浮かぶかといえば、自分が出版社に勤めていた頃、同じような出来事があったからだ。

そこではさすがに電源を落とすことはなかったが、インターネットを使えなくし、PCを使用禁止とするという「改革」が行われた。

メディアの仕事でネットが使えないのは、言うまでもなく致命的。

さらにPCもダメなのでプリンターも動かず、定時を過ぎるとほとんどの業務ができなくなった。

これで残業は一切なくなるはずというオーナー社長の決断だったのだが、すぐさま大問題が発生した。

仕事量は一切変わらず、人員も増えなかったため、残業が必要なことは変わらない。

だが、職場では作業ができないことから、おのおのが仕事を自宅に持ち帰ったり、はたまた近所のネットカフェのPCを使うようになってしまったのだ。

当時、筆者が最も心配したのはデータの流出である。

万が一、発売前の書籍の原稿や大御所カメラマンの作品データなど、流出したら取り返しがつかないものをメモリに入れて、どこかに置き忘れたらどうするのか。

結局、オーナー社長の息子に直訴して、定時後もネットとPCを使えるようにし、残業削減については別途考えるということで落ち着いた。

筆者のかつての勤め先の場合、事前に現場の声を聞いていれば無茶だとすぐ分かる話だったが、そうでなくても一足飛びに変化を求めると、予想していなかった副反応が起きることがある。

日本の企業はしばしばボトムアップ型と言われる。

それでも労働環境や勤務制度の変更となると、下からの要望で組織が動くというよりは、トップの意思が大きなファクターとなる。

大きな組織になればなるほど社員全員の意見に耳を傾けることは難しいとはいえ、会社を率いる立場の方は、ぜひ仕事の最前線に立つ人々が戸惑うことのないように丁寧な改革を進めていただきたいものである。

現実に則さない改革は失敗につながる

あれこれと議論を重ねるが、物事が一向に決まらないというのは、日本でしばしば見られる光景だ。

そこで、何かを成し遂げようと思えば、少々詰めが甘くても一気呵成にやるしかないーーこういった考え方は、一定程度合理性がある。

実際の話、改革はもちろんのこと、革命的な変化を求める上では、一定の熱量もしくは勢いが必要となってくるもの。

それでも筆者は、あえて言いたい。

「働き方改革における見切り発車は、時としてマイナスの結果を招くことがある」

筆者がかつて管理職を務めた経験上、仕事で一番困る部下とは、できないことをできると言ってしまう者。

意欲はあるものの自らの能力を客観視できておらず、言葉を信じて任せると大変なことになる。

それでも個人の失敗が及ぼす範囲などたかが知れているが、もし会社組織が同じことをやったなら、大混乱に陥ること必至である。

これは言わば、改革をフライング気味に打ち出し、後に実現不可能であったと気づくパターン。

筆者が現在お世話になっている取引先が今、まさにこの問題に陥っている。

若手の離職率が高いことに悩んでいたその会社は最近、給与に歩合制を導入した。

頑張っている人、とりわけ仕事を多く抱える若い社員が報われるようにとの考えに基づくもので、保守的なことで有名だった会社にしては、革命的な取り組みであった。

ところが、決定から半年ほど経つものの、聞こえてくるのは若者の不満ばかり。

仲のいい社員の人に話を聞くと、「そもそもできないことをやろうとして、前より悪くなった」という答えが返ってきた。

経緯は、次のようなものであったという。

歩合制への移行を決めたのは会社の本部で、支部に当たるその職場(支部といっても社員数百人はいる)では、全ての業務について給与に反映される額を決めていった。

ところが、それを本当に実行するとベテラン社員の給与が一挙に下がり、若手に抜かれてしまうことが判明。

これまで会社に尽くしてきたのに、その貢献は一切反映されないのかという不満の声が上がり、ベテラン組は稟議のハンコを押しただけでも業務管理に携わったとして、歩合がつくようにしたのだとか。

「結局、入社5年目くらいまでの社員全員の割当額はいくら、という風に決められたみたいで、今はそのパイを若手同士で取り合っている状態です。

そうすると、たくさん仕事をしてやっと今まで通りか少し上回るくらいで、仕事を振られないと逆に前よりお給料が減ってしまうんです」

これもまた、変えることを目的と履き違えた改革の事例といえるだろう。

以上のようなエピソードから筆者が思うのは、改革と革命、呼び名はどちらでもいいが、制度や仕組みを変える上では、漸進的なアプローチを忘れてはならないということだ。

仕事で変えるべきことは、何も大きな枠組みだけとは限らない。

ひとつひとつは些細なことでも、働く人々に本来無用のプレッシャーを与えている事象は、オフィスを見渡せば無数にある。

「無駄な会議は極力減らして欲しい」

「仕事分担を明確にしてもらいたい」

「事前に分かっている予定を直前で発表するのはやめて欲しい」

「目を通すべき資料を『あとで見る』と言って机の上で寝かさないでもらいたい」

「好き嫌いやその日の機嫌を仕事に持ち込む上司を何とかして欲しい」etc.

以上は筆者が今の職場で感じていることの一部だが、これらを改めてもらえるだけでも、仕事の環境は大いに改善されると思っている。

もちろん、企業・業界としての取り組みや法整備など、大きな視点での働き方改革が待ったなしであることは言うまでもない。

だが同時に、働く人々がストレスを感じる原因となっている小さな問題にも目を向け、身近なところから改革を進めることも、決しておろそかであってはならないのである。

御堂筋あかり スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

 

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