諸説ありすぎて「正解」が見えない! 運転中の音楽は有益? それとも危険?

ドライバー

楽しいにつけ悲しいにつけ音楽を聴きたくなる。そんな方も多いのではないでしょうか。

失恋したとき美空ひばりの「悲しい酒」をひたすら聴き続け、どっぷりと悲しみに浸り、涙を流し続けたという人を知っています。悲しいときには悲しい歌を敢えて聴く。それが悲しみから抜け出す特効薬だとか。

音楽は感情と結びついています。しかも、感情だけではなく、皮膚温度や呼吸、血流、筋肉の緊張などの生理的反応を引き起こすこともわかっています。

そこで気になるのが、運転中の音楽。
それは運転にいい影響を与えるのでしょうか。
それとも危険なのでしょうか。

調べてみると、「非常に有益」から「非常に危険」までさまざまな説があり、混乱します。
まるでダイエット法と同じですね。

ドライバーはこうした状況にあって、何を信じればいいのでしょうか。
多様な情報をどう捉えたらいいのかも含め、運転中の音楽についてさまざまな側面から考えます。

音楽は感情だけでなく生理的にも影響を及ぼす

音楽は聴いている人にどのような影響を及ぼすのか。それは非常に興味深いテーマです。
これまでさまざまな研究者がこのテーマに挑戦してきました。*1

その結果、音楽によってなんらかの感情が引き起こされることや、既に存在している感情を強めたり、ある感情から解き放たれたりすること自体は明らかにされています。
ただし、どのような音楽を聴いたときにどのような感情が生じるかについては、定説といえるものがまだありません。

音楽を聴くと生理的な反応が起こることもわかっています。
例えば、ある実験では、子守歌を聴いたときには筋肉が弛緩し、行進曲を聴いたときには筋肉が緊張しました。
また、別の実験では、リラックスするために自分が選んだ曲を聴いている間は、鎮静するというよりむしろ覚醒する傾向もありました。

ただし、こうした実験結果は個人差が大きく、必ずしも一律な生理反応にはつながりませんでした。
また、さまざまな研究から得られた結論が一致しているわけでもありません。
さらに、皮膚温度や心拍、血流など生理反応の種類によっても、実験結果の信頼度にはバラつきがあり、まだ定説といえるものがありません。

以上のように、音楽が私たちに影響を与えること自体はさまざまな研究によって明らかにされていますが、それ以上の明確な共通認識はないというのが実情です。

では、運転中の音楽はドライバーにどのような影響を与えるのでしょうか。
結論を先取りすると、調べれば調べるほどさまざまな説があり、困惑したというのが筆者の正直な気持ちです。

まず、その影響をネガティブなものとポジティブなものに分けて、いくつかの例をご紹介します。

運転中に音楽を聴くのは危険だとする説

運転中の音楽はドライバーにネガティブな影響を与えるという研究からみていきましょう。

BGMは運転にマイナス効果をもたらすという研究
2022年1月、東北大学の研究者たちが次のような研究結果を発表しました。*2

その実験は以下のようなものでした。
「左耳にテスト音が聞こえたらボタンを押す」という単純なタスク中に、右耳にBGM(ジャズピアノ曲)を流し、それがタスクにどのような影響を与えるか、「脳磁図」と呼ばれる脳波の計測をすることによって、反応を調べる。

その結果、右耳から雑音を流した場合には影響はありませんでしたが、音楽を流した場合には、それが小さい音であっても、テスト音への反応が非常に悪くなったということです。
こうした結果から、実験を行ったチームは、以下のような結論を出しています。

「音楽を聴きながらの車運転(“ながら”運転)、や勉強(“ながら”勉強)など注意を要する作業中では、たとえ大音量ではなくても作業に対する注意レベルの低下が生じ、実際に作業効率にも影響を与えうる」

音楽のテンポを速くすると男性のスピード違反が増加するという研究
次の実験は、被験者が「運転中に聞きたい好きな音楽」を聴きながら、ドライビングシミュレーターを使って疑似運転するという方法で行われました。*3

その際、音楽のテンポを、オリジナルのテンポ、オリジナルより10%速いテンポ、10%遅いテンポに設定し、音楽なしでも実施しました。

唾液中のホルモンを計測したところ、音楽のテンポを速くすることで、男性の攻撃性が高まり、運転中の速度超過の回数が多かったことがわかりました。

実験を行った研究者は、「このことから、男性は音楽のテンポに感化されてスピードをオーバーする可能性が高いことが示された」と述べています。

一方、女性は音楽のテンポを速くすることでストレスが増加し、運転に対して負荷を感じていました。

この研究では、音楽のテンポに対するホルモン分泌の変化や心理的変化には性差があり、運転の際にはそうした傾向を考慮する必要があるとしています。

運転中に好きな曲を聴くのは命取りになるという研究
次はイスラエルの研究者による研究です。*4
ベングリオン大学の芸術学部音楽心理学部長であるウォーレン・ブロツキー教授は、次のように述べています。

「自動車は世界で唯一、間違った音楽(好きな音楽)を聴いているだけで死ぬ可能性のある場所です」

ブロツキー教授の研究によると、好きな曲がかかっているとドライバーは集中力が低下する傾向があります。
音楽のジャンルを問わず、大声で歌ったり、音楽に合わせて体を動かしたり、時には架空の楽器をエア演奏したり、見えないマイクを握りしめたりすることがしばしばあるのです。
こうした行動はどれも、路上での出来事に対する反応を鈍くさせるおそれがあります。

したがって、ドライバーはその音楽が自分にどのような影響を与えるかを認識し、注意散漫になるような曲を避けなければならないと、同教授は警鐘を鳴らしています。

運転中に音楽を聴くのは有益だとする説

しかし、一方で、上でみた説とは正反対の研究結果もあります。
それはどのようなものでしょうか。

好きな音楽のBGMは運転中の集中力を高めるという研究
運転中に好きな音楽を聴いていると、交感神経系が活性化して、アクシデントに対する反応時間がわずかながら短くなったという実験結果があります。*5

この実験ではドライビングシミュレーターを使い、道路を走行中に突然、対向車線の車両の陰から障害物が飛び出してくる突発的な状況を作り、ドライバーの反応を測定しました。
被験者は日常的に運転している22歳の男性1名です。

その結果、好きな音楽を聴いて音楽に共感し、ドライブシーンとのフィット感を得ていた場合は、共感が得られない音楽を聴いていた場合や音楽なしの場合に比べて、突発的な危険回避の反応がわずかながら速かったという結果が得られました。

それは、共感できる音楽を聴くことによって、実際に集中力が高まっていたからだと研究者は分析しています。

眠気覚ましに「懐メロ」を流す取り組み
トヨタ紡織は2022年3月、走行中の眠気を抑制するとともに、眠気推定結果などのデータを収集・可視化するIoT シートカバーを開発し、運送事業者向けに実証実験を開始しました。*6
目的は、トラックドライバーの働きやすさや、安心・安全な運行を実現すること。

このIoT シートカバーは、疲労状態推定システムと眠気抑制システムを搭載したデバイスで、スマートフォンアプリと連動させて使います。

疲労状態推定システムは、ドライバーが座るだけで疲労状態を推定します。
一方、眠気抑制システムは、車内の専用カメラを使ってドライバーの目や頭の動きを感知し、ドライバーの眠気レベルを推定します。
そして、そのレベルに合わせて、シートカバーが振動したり、音楽が流れたりして眠気を覚ます仕組みです。

運転中の居眠りを防ぐために警告音を鳴らす仕組みは、高級車を中心に導入が進んでいます。しかし、けたたましい音は不快感を与えますし、単調な音を繰り返せば、慣れにつながって効果が薄れる恐れもあります。*7

そこで、効果を高めるためには、別の音を考える必要があると開発陣は考えていました。
そして辿りついたのは、「懐かしさを感じる音楽」。
「懐メロ」を聴くと、心が震えるような感情が湧き上がり、眠気が覚めやすくなるという実験データを得たのです。

このシステムでは、ドライバーの年齢を入力すると、学生時代から20代までの間にヒットしていた曲が自動的に選ばれ流れるように設定されています。
ただし、どのような曲を採用したかは、「研究中で明らかにできない」とか。

どれが「正解」なのか、何を信じたらいいのか

これまでみてきたように、音楽が私たちに与える影響についても、運転中に音楽を聴くことがドライバーにどのような影響を与えるかについてもさまざまな研究があり、その中には矛盾するものも含まれています。

それはなぜでしょうか。
そして、一体どの説を信じればいいのでしょうか。

どれも「正解」で、どれも「正解ではない」
実験は何かを明らかにするために行います。
今まで明確にわかっていなかったことに対して、仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを確かめようとします。
したがって、実験によって、目的も方法も被験者も異なります。

例えば、被験者ひとつとってみても、年齢や性別、体質、体格、性格、学歴、職業、経験、等々、さまざまな違いをもった人たちが対象になり得ます。

今回のように音楽と運転がテーマの場合にはさらに、音楽が好きかどうかや、曲の好み、運転歴や事故歴、運転が好きかどうか、運転テクニックはどの程度か、等々も結果に影響を与えるかもしれません。

また、同じ人であっても、毎日同じコンディションというわけではありませんし、同じ日でも、朝から夜までの間、まったく同じ体調や気持ちで過ごしているわけでもありません。
例えば、前日、悲しい経験をした人は平常心で実験を受けることができるでしょうか。
実験に遅刻しそうになった人は・・・?

実験・調査の対象者は何人で、どうやって集めたのか、実験・調査はいつどこで行ったのか、という問題もあります。

さらに、実験や調査の結果をどう捉え、どう分析し、どのような結論を導き出すかは研究者によって違うでしょう。

そう考えると、多様な説があるのはごく当然のことといえます。
どの結果もその研究においては正しかったのでしょうが、それぞれの説が誰にでも当てはまるかというと、そんな筈はないのです。

つまり、上の説はどれも「正解」であり、同時にどれも「正解ではない」ということになります。

どの説を信じたらいいのか
では、上のようにさまざまな説に接したとき、どのように考えればいいのでしょうか。

一番危険なのは、自分に都合のいい説を信じることです。
例えば、自分は運転中に音楽を聴くのが好きだし、それをやめるつもりもない。ほら、この記事でも好きな音楽を聴くのはいい効果があるといってるじゃないか、というふうに。

自分に都合のいいものを無意識に選択しているのではないかと自問することで自分のバイアスに気づくこともあります。

また、どれか1つの説だけを鵜呑みにして、信じこんでしまうのも危険です。
そういう意味では、さまざまな説があるのはいいことですね。

どの説からもある程度の距離をおいて、それは自分にもあてはまるのかと冷静に判断してみる。
そして、運転中にさまざまな曲をかけてみて、自分の感情がどう変化するのか意識し、そのような状態で集中力が維持できているか、アクシデントがあっても素早く反応できるのか考えてみる。

安全で快適な運転のために、安全な環境の中で、一度、五感をフル活動させて、そんなふうに自己点検することも大切ではないでしょうか。

資料一覧
*1
山崎晃男(2009)「音楽と感情についての心理学的研究」pp.224-228
https://core.ac.uk/download/pdf/229398023.pdf

*2
東北大学大学院医工学研究科・東北大学大学院医学系研究科・東北大学加齢医学研究所 (2022)プレスリリース「聴き“ながら”の作業は作業効率を低下させる可能性!‐ 音楽刺激は低音量でも聴覚性選択的注意を阻害する ‐」pp.1-2
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20220114_01web2_bgm.pdf

*3
豊島久美子「安全な運転環境を提供する音楽の研究(Physiological-endocrinological study on music that brings safe and comfortable driving)」pp.2-4
https://www.nissan-zaidan.or.jp/wp-content/uploads/108325.pdf

*4
The Times of Isreal(2015)“Your favorite music is dangerous when driving”(2015年6月19日 5:41 am)
https://www.timesofisrael.com/study-shows-music-can-endanger-drivers/

*5
白萩久輝・、栗谷川幸代・影山一郎(2010)「運転中の音楽聴取がドライバに及ぼす影響に関する研究―突発事象に対するドライバの応答性―」(日本大学生産工学部第43回学術講演会)pp.154-156
https://www.cit.nihon-u.ac.jp/kouendata/No.43/1_kikai/1-049.pdf

*6
トヨタ紡織株式会社(2022)プレスリリース「トヨタ紡織、疲労推定・眠気抑制システムを活用し、運送事業者向け実証実験を開始 ~安全・安心な運行を目指して~ 」p.1
https://www.toyota-boshoku.com/jp/news/_assets/upload/220329.pdf

*7
朝日新聞DIGITAL「運転中の眠気を覚ますなら……体験してつかんだ「懐メロ」の効果」(2021年11月7日 6時30分)
https://www.asahi.com/articles/ASPC27R6RPBPOIPE01H.html


横内美保子 博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

 

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